
潮風と波音の中で。腰越・竹内さん夫婦と語る、海辺のデッキの1年後
強烈な潮風と飛砂に抗うウリン。完成から1年が経過したデッキでの対話
鎌倉職人の栞
「海の近くにウッドデッキを作るのは無謀ですか」という心配や、「潮風でビスが錆びたり、床板がボロボロになったりしないか」という不安。江ノ島を望む腰越の竹内さん夫婦から相談を受けた日のことを、今でもよく覚えている。今回は完成から1年が経ったデッキの上で、冷たいお茶を飲みながら夫婦と語り合った会話をそのままお届けするよ。潮風と砂に晒されるリアルな暮らしの声を、参考にしてほしい。
江ノ電の響きと、海の気配。
江ノ島電鉄の線路からほど近い、腰越の細い路地を抜けた先に竹内さんの家はある。海までは歩いてすぐ。遮るもののない潮風が、年中通り抜ける場所だ。
施工からちょうど1年。強烈な潮風と、容赦なく吹き付ける砂に晒されたウッドデッキがどう変化したのか。俺は定期点検を兼ねて、竹内さん夫妻を訪ねた。
空は雲ひとつない青。遠くに江ノ島の輪郭がくっきりと浮かんでいる。1年が経ち、ウリンの赤褐色はゆっくりと落ち着き始め、日差しを浴びて淡い銀灰色(シルバーグレー)を帯び始めていた。デッキの上に並んだ木製の椅子に腰掛け、奥様が淹れてくれた冷たい緑茶を飲みながら、俺たちの対話は始まった。
「本当に腐らないの?」から始まった対話
「正直なところ、最初は疑っていたんですよ。」
ご主人の竹内さんが、お茶を一口飲んで笑いながら切り出した。
「だって、ここは腰越ですよ。海からすぐで、湿気と潮風が強烈だ。安物の木材で作った近所のフェンスが、わずか3年で白アリと塩害でボロボロになって崩れていくのを目の前で見ていましたから。いくら『鉄の木』と言われても、本物の天然木がそんな環境で耐えられるわけがないと奥さんと話していたんです。」
隣で奥様も深く頷いた。
「他の業者さんに見積もりをお願いした時は、プラスチックの樹脂デッキを強く勧められました。木製だとすぐに腐りますよって。でも、私はどうしても本物の木の温もりが諦めきれなくて。そんな時に、知人の紹介で俺たちに連絡をくれたんだ。」
「俺が竹内さん夫婦に伝えたのは、東南アジアの過酷な桟橋で何十年も塩水に浸かりながら使われているウリンの歴史だった。樹脂デッキは手入れが少ないように見えて、真夏は火傷するほど熱くなって歩けなくなる。海のそばの特等席が夏に使えないのは論外だ。無塗装のまま潮風と真っ向から勝負できるのは、ウリンしかいないと提案したんだよ。」
最初の大きな台風、そして1年目のリアル
「忘れられないのが、去年の秋に来た大型台風です。」
奥様が、海の方を見つめながら当時の様子を語ってくれた。
「このあたりは横殴りの雨と一緒に、塩分を含んだ海砂が勢いよくデッキに叩きつけられるんです。朝になって恐る恐るカーテンを開けたら、デッキが砂だらけで真っ白になっていて。でも、バケツで水を汲んでザッと流してほうきで掃いたら、さっと元の綺麗な木肌に戻ったんです。ささくれも一切ないし、板が反ったり浮いたりしている箇所もひとつもありませんでした。」
ウリンの繊維は極めて密に詰まっているため、飛んできた砂が擦れても傷になりにくく、塩水や雨水を内部に通さない。
「一般的な防腐木材だと、台風の後に水を含んで膨張し、乾くときにビスが浮き上がったり板が割れたりする。だけど竹内さん邸では、プロが使う専用の超硬工具で下穴皿取りをミリ単位で施工し、錆びない最高品質のステンレスビスをしっかり沈め込んでいる。過酷な気候を前提に正しく仕立てれば、台風が来ようがウリンはびくともしないんだよ。」
潮風と砂と付き合う、海辺の暮らしの知恵
対談の中で、奥様から日常のお手入れについての質問が出た。
「そういえば、近所の方から『木製のデッキは毎年ペンキを塗らないとダメになる』と言われたんですけど、本当に私たちはこのまま何もしなくて良いんですか?」
「本当に何もしなくていいぞ。」俺ははっきりと答えた。
「ペンキを塗る必要はない。むしろペンキを塗ると、ウリンが持つ天然の呼吸を妨げてしまう。日常のケアは、潮風や飛砂でザラつきが気になった時に、水で流して掃く。それだけで十分だ。少し汚れが頑固になってきたら、たまに高圧洗浄機で軽く流してやればいい。それだけで、ウリン特有の滑らかな木肌が保てる。」
「確かに、この1年間、面倒な塗装の準備も、強い防腐剤を撒く手間も一切ありませんでした。」とご主人が言った。
「その時間を、サーフボードのワックス掛けや、デッキでののんびりした読書に回せる。それこそが、海の近くで暮らす本当の贅沢だと思っているよ。」
時間が編み出す、新しい腰越の風格
日が少しずつ傾き始め、江ノ島のシルエットが黄金色の光に溶けていく。ウリンのデッキの表面が、夕陽を反射して柔らかく輝いていた。
「赤褐色から美しいシルバーグレーへ変わる過程が、本当に愛おしいんです。」
奥様がデッキの床板を優しく撫でながら言った。
「最初はもっと赤い色だったのに、雨や風を浴びるうちに、だんだん落ち着いた色になってきて。腰越のレトロな江ノ電沿いの風景や、目の前の海に少しずつ馴染んでいくのが分かります。まるで、最初からここにいたみたいに。」
「それはウリンが生きていて、ここの気候と対話している証拠だぞ。」と俺は微笑んだ。
「ただの工業製品のプラスチックは、作った瞬間が一番綺麗で、そこからは汚れて劣化していくだけだ。でも本物の無垢木材は、潮風や紫外線を浴びて、ゆっくりと風格のあるシルバーグレーへと成熟していく。この色の変化こそ、竹内さん夫婦がここで暮らした『時間』そのものなんだ。これからも潮風を言い訳にせず、この海辺の特等席で、次の10年、20年を安心して楽しんでほしい。」
そう伝えると、夫婦は静かに微笑み、江ノ島の美しい夕暮れを見つめていた。
鎌倉職人のおさらい
腰越の竹内さん夫妻と語り合って改めて確信したのは、海のそばという過酷な環境こそ、素材選びに一切の妥協をしてはいけないということだ。1年経っても全く狂わず、美しいシルバーグレーへ変わりつつあるウリンの強さは、日々のメンテナンスから夫婦を解放してくれた。潮風を言い訳にせず、長く愛せる本物を選ぶことこそが、海辺の暮らしを本当の意味で豊かにする近道だぞ。

100年後も愛される、
長く使うという贅沢。
私たちの家具が長く使えることを大切にするのは、ウリンという素材が持つ長い時間感覚に裏打ちされているからです。
使い捨ての消費文化から脱却し、世代を超えて受け継がれる価値を持つ家具。KamaKraftは、大自然の恩恵である「鉄の木」を、丁寧な工芸技術によってあなたの日常へと繋ぎます。