
大町のガレージ上に架ける
空の特等席
鎌倉市大町。限られた敷地に生まれた空中デッキの構造設計記録
- 01車高クリアランス:ミニバンが通れる有効高2.5mの確保が絶対条件。梁の懐(ふところ)を逆算して桁を掛ける。
- 02外壁への直留めはNG:大町の谷戸風によるデッキの揺れが、家の柱や防水層を傷める。完全に独立した自立型フレームで支える。
- 03耐風フェンス:大町は風の通り道。フェンスは突風をいなすために15mmの均一スリットで設計する。
- 04白坂さんのご要望:2階リビングと同一レベルでフラットに繋ぐこと。段差ゼロが絶対条件。
駐車場の上に空を切り取る。
それが俺たちへの依頼だった。
大町の細い路地を入った先に、白坂さんの家はある。鎌倉らしい谷戸の地形で、敷地は決して広くはない。リビングは2階にあり、庭代わりのベランダを持ちたいという強い要望があった。問題は、1階がほぼ全面ガレージになっていること。通常であれば庭のスペースがない場所だ。
「ガレージの屋根の上に、そのままウッドデッキを作ることはできますか。2階のリビングから段差なく出られるようにしたい。」
白坂さんからのメッセージは短かったが、依頼の意味はすぐに分かった。これはただのウッドデッキ施工じゃない。構造を設計するところから仕事だ。愛車を守りながら、その真上に家族の空を生み出す。ガレージ上スカイデッキの設計が始まった。
大町の地形と、ガレージ上という特殊解
まず白坂さんの敷地を測量した。1階ガレージの内寸は幅5.2m、奥行き4.8m。2台分の駐車スペースだ。谷戸の底に位置する立地で、夏場は正面から吹き下ろす風が強い。通常のデッキならば地面に束柱を立てて根太を組むが、ガレージ上では話が違う。
ガレージ屋根への荷重分散、愛車の車高クリアランスの確保、そして谷戸特有の強風への対応。この3つを同時に解決するには、ガレージ躯体から完全に切り離した、自立型の構造フレームを設計するしかなかった。
外壁に直接ボルト留めしてしまうと、強風でデッキが揺れるたびに外壁の防水層にダメージが蓄積する。だから俺たちは地面に深く独立基礎を埋め込み、太い105mm角のウリン柱で空中に張り出すフレームを自立させることにした。ガレージとは完全に縁を切った、純粋に木だけが支える構造だ。ウリンの耐久性について詳しく読む
The Structural Anatomy
4つの積層構造が生む、 揺るぎない空中テラス

地中600mmに打ち込む独立基礎
ガレージの角4点を外れた位置に、鉄筋コンクリートの独立基礎を打設する。底面積は40cm×40cm、深さ600mm。地面から上は肉厚の絶縁スペーサーを挟み、台風時にデッキが基礎ごと引き抜かれないよう、アンカーボルトで鉄骨プレートに緊結する。ガレージの駐車動線を一切妨げない位置に配置し、車の切り返し半径を現場で確認しながら最終決定した。
打設後72時間の養生期間は必ず守ること。早期荷重は基礎強度を損なう。

105mm角の極太柱と二重梁で組み上げる、自立した骨組み
水に沈むほどの比重を持つウリンだからこそ、105mm角という規格外の太さの柱を選べる。この柱4本をガレージの外周に立て、それぞれをダブルビーム(梁を2本並べた二重梁)で横方向に繋いで、ガレージを跨ぐ頑強な構造フレームを構成した。柱と梁の接合部には溶融亜鉛メッキの専用羽子板ボルトを打ち込み、木材が乾燥収縮しても緩みが出ない設計にしてある。ガレージ躯体とは完全に縁を切った、自立した骨組みだ。空中に浮くデッキの重量と大町の谷戸風をそのまま受け止める、この現場の心臓部になる。
柱スパン3.5m。たわみを抑えるため、梁材には火打ちブレース補強を追加。

外壁と絶縁する、フローティング設計
完成したデッキと2階外壁の間には、意図的に15mmのクリアランス(隙間)を設けている。デッキと家屋は構造的に一切接触しない。この隙間に防水ブチルテープを貼り付けた薄いアルミの水切りを挟み込み、雨水の侵入だけを防ぐ。こうすることで、大町の強風でデッキが揺れても、その振動は家本体に一切伝わらない。防水層も外壁も傷つけない。これは施工経験の少ない業者が最も見落としやすい工程だ。
外壁への固定ボルトは1本も使っていない。完全自立型。

大町の風をいなす、15mmスリットのルーバーフェンス
谷戸の底から吹き上がる強風は、板を平行に隙間なく並べたフェンスを直撃すると、面全体に強い荷重がかかる。フェンスが受ける力は、スリット(隙間)の面積で決まる。俺たちは15mmの均一な隙間で組み上げたルーバー形状を採用し、風を受け流しながらプライバシーを確保する設計とした。この均一な隙間は同時に、大町の山並みや空を切り取って取り込む額縁にもなる。風景と機能を両立した、空中テラスだけが持てる特別な眺めだ。
ルーバー1枚ごとの取り付けは、水平器で確認しながら一本ずつ固定。
リビングの先に、空が続く。
施工が完了した朝、白坂さんと一緒に2階リビングの掃き出し窓を開けた。
室内のフローリングと、デッキのウリン床板が、段差ゼロで繋がっている。靴を履き替えることなく、そのまま自然と足が外へ踏み出せる。大町の空が、リビングの延長として広がっていた。
「こんなに広く感じるとは思わなかった」と白坂さんは静かに言った。それは空間の広さだけじゃなく、ガレージの屋根の上に、自分たちの時間が生まれたということへの実感だと思う。
ウリンの赤褐色は、これから大町の谷戸の風と雨を受けながら、ゆっくりと上品なシルバーグレーへと変わっていく。その変化のたびに、白坂さんファミリーの時間がこの木に刻まれていく。
白坂さん、引き渡しお疲れ様でした。大町の谷戸を抜ける風が、これからもデッキの隙間をゆっくりと通り抜けていきます。ガレージの上に空間が生まれるとは思っていなかった、とおっしゃっていましたが、それが俺たちの仕事です。鉄の木が、ご家族の時間をしっかりと支えていきます。何か気になることがあれば、いつでも連絡してください。

100年後も愛される、
長く使うという贅沢。
私たちの家具が長く使えることを大切にするのは、ウリンという素材が持つ長い時間感覚に裏打ちされているからです。
使い捨ての消費文化から脱却し、世代を超えて受け継がれる価値を持つ家具。KamaKraftは、大自然の恩恵である「鉄の木」を、丁寧な工芸技術によってあなたの日常へと繋ぎます。